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制約条件の理論(TOC)と出会って

吉田隆文

 私が制約条件の理論(TOC=Theory of Constraints)と出会ったのは、2000年2月9日です。しばらく音信が無かった米国人技術者との電子メール交換を通してTOCの存在を知りました。 彼が言うには、日本の製造業の重役たちは”改善”による製造コスト低減と徹底した品質の造り込みしか頭に無く、この傾向を早く変えないとこの先20年は日本の生活水準が急激に低下するというのです。  私は、『やけにショッキングな話をするなあ、”改善”で何が悪いの?』とため息をつきつつ、日頃漠然と感じている”会社も何かを変えないとジリ貧だな”という感覚を思い出しました。  どうも彼は5年ほど前に米国のハイテク企業から米国にある日本企業に移って製造部門を担当し、日本企業に欠けていたTOCを導入しようとして、結局日本人重役に取り合ってもらえず、私への電子メールの中で不満を語った様なのです。  私は、彼が”改善”を経営の中心におく日本人重役に対してTOCなるものの重要性をぶち上げ重役の感情を逆撫でしたのではないか思い、とりあえず『日本的経営』に慣れてもらうのが得策 かと、いくつかの文献と書籍を薦めました。 それに対して、『参考の紹介をありがとう。 でも、米国人は日本人がゴールドラット氏(TOCの著者)を理解する以上に今井氏(改善の著者)を良く理解しているよ。  君もゴールドラット氏の著作を読むべきだよ。』というのが彼の返答でした。

 『ゴールドラットって何者?TOCは、目次(Table Of Contents)じゃあなかったけ?』と、疑心半疑のまま、某書店のオンライン検索で探すのですが見つかりません。 ひょっとして邦訳されてないのではと Amazon.com を検索すると、出てくるは出てくるは、ゴールドラット氏のTOC関連で山のように数多くの書籍が出版されているではありませんか。 正直言って驚きました。 もうひとつ驚いたのは、同氏の最初の著作である『The Goal』が1984年の出版で、15年以上も経つのに未だ邦訳されていないことでした。 しかたなく Amazon.com で注文し、英語で読むことにしました。 後で判ったことなのですが、同氏は最近まで日本語翻訳の許可を出さなかったようです。

 『The Goal』の内容は書評に譲るとして(下の表紙の写真をクリックしてみてください)、私の感想としては工場経営を扱ったビジネス小説でありながら、

1.読み始めたら止まらなくなる
2.自分がいつのまにか主人公のアレックスになりきってしまう

ことです。 そして、印象に残ったのは、

1.企業の目的はもうけること!
2.ボトルネックはどこだ?
3.在庫を減らせ!
4.短納期化せよ!
5.ボーイスカートの行進と製造工程の対比
6.部分最適で終わっていないか?!
7.直観を大切にしてそれを言葉にする作業
8.ソクラテス的対話の有効性

です。 1〜6.は後になって冷静に考えれば、『なんだこんなこと当たり前のことではないか!』と思うのですが、それらの根本原因を顕在化させる7〜8.の思考のプロセスが読者を読み始めたら止まらなくなる状況に至らしめます。  一種の謎解きサスペンスのようで、題材以上の効果をかもし出して読者を引き込むようです。 そして、自分が主人公のアレックスになったつもりで思考し行動すると、実際に仕事の成果が得られるのです。  これには正直言って本当に驚きました。

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でも、なぜこれが理論なのか? 私自身、しっくり行かないものがあるのも事実です。 TOCのCはConstraints で、日本語では制約条件です。 制約条件で思い出すのが数理科学で出てくる線形計画法(LP)や最適化問題です。 大学などで習うときは数理的取り扱いやコンピュータによる求解に興味を持ったりもするのです。  しかし、実社会に出ると経験や勘の方に重きを置き、それら手法は理解の域に留めて積極的に使おうとしなくなるのが私の経験でした。 TOCは最適化問題を数理的処理を通さず、独特の思考プロセスで解いてしまう手法のように思えてきます。

 『The Goal』に続き、『The Race』、『Theory of Constraints』と読み進めて行きました。 その過程で脳裏に浮かんだのは、「在庫を低減し短納期を達成する工場経営手法」としてのTOCでした。 でも、それってトヨタのカンバン方式の方が優れているのではないでしょうか?  「なぜ、TOCが理論で、カンバン方式が理論でないのか?」と、疑問の種がどんどん大きくなっていくではありませんか。

 次に手にしたのは、『It's Not Luck』 と 『Critical Chain』です。 『It's Not Luck』は、工場再建を果たしたアレックスが、事業部の再編という大きなスケールで活躍する話です。 最終的にアレックスが会社の最高経営責任者になりハッピーエンドで終わりますが、その過程で展開される思考プロセス(TP = Thinking Process)が最も重要です。 『Critical Chain』は、特に人的リソースに的を絞ったプロジェクト管理にTOCを展開し、ボトルネックとなるリソースにバッファーを設けてプロジェクトを成功させます。

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 いづれの著作もTOCの方法論を垣間見ますが、この段階にくると実践方法を具体的に知りたくなります。  ゴールドラット氏の設立した学校、Avraham Y. Goldratt Instituteで学ぶのが最適なのでしょうが、いかんせん米国なので参加するのはそう簡単ではありません。 日本国内でもTOCの実践方法を指導するところが 出てきているようですが、それでもかなり講習料を取られるようです。 それらの代わりにお勧めなのが、『Deming and Goldratt』です。 TOCの具体的な手法が品質管理で有名なDemingの手法と比較しながら書かれています。 特に思考プロセスの手法解説は非常に役に立ちますので、著者らの許可が得られ次第本サイトに邦訳文を掲載したいと思います。  なお、英語あるいは伊語ですが、著者らのホームページ(The Decalogue)が非常に参考になります。  このホームページでは、CRT(Current Reality Tree:現状問題構造ツリー)をサイト上に実際に作成してみることもできます。 『Thinking for a Change』は少し冗長ですが思考プロセスを極めたい人に最適です。 『TOCハンドブック 制約条件の理論』は、Robert E. Stein氏の『The Theory of Constraints』の邦訳で、TOCを統計的品質管理手法や実験計画法などへ応用範囲を広げる方法が解説されています。

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 『Necessary But Not Sufficient』はゴールドラット氏の最新の著作で、ハイテク企業の問題点とTOCによる解決法がビジネス小説として展開されています。

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 2001年はTOCの邦訳解禁の年となりましたが、今後は日本国内でもTOC関連の書籍が山のように出版され、セミナーも数多く開催されるものと予想されます。  実際にTOCが日本に根付くかどうかは別として、私がTOCと出会って本当に一番良かったなあと思うのは、思考プロセス(TP)に出会い、直観(Intuition)を言葉にし(Verbalize)、全体最適(Goal)のためボトルネックとなっている部分にメスを入れる(Injection) 方法を得たことです。

 今後は私のTOC応用例を紹介していきたいと思いますのでご期待ください。

本文は2001年(平成13年)12月29日(土)に記述したものです。

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